レシートは財布と封筒に分かれたまま。記帳は月末にまとめて。請求書は毎回、前回のファイルを開いて日付と金額を打ち直す。
ひとつずつは数分の作業です。それでも一人で事業をしていると、この数分が本業の時間を確実に削ります。
経理を楽にするコツは、全部を自動化することではありません。「手で触る回数」を減らすことです。
この記事では、領収書・記帳・請求という毎月必ず発生する3つの作業について、今日から減らせる工夫を7つ紹介します。会計ソフトの話は、手作業を減らしたあとの最後に出てきます。
税額の計算方法や、制度そのものの正解は扱いません。申告内容や保存方法の判断は、国税庁の最新情報や税理士へ確認してください。
個人事業主の経理は、この4つでできている
毎月やることは「集める・記録する・請求する・確認する」
経理という言葉は大きく聞こえますが、個人事業主が毎月やっていることは、だいたい次の4つに収まります。
- 集める:領収書・レシート・クレジットカードの明細を手元に集める
- 記録する:集めたものを帳簿へ入れる(記帳)
- 請求する:請求書を作って送る
- 確認する:入金されたかを見て、残りを追いかける
確定申告は、この4つを1年ぶん積み上げた結果です。申告前だけ頑張る作業ではなく、毎月の4つが散らかっているほど、最後にまとめて重くなります。
時間が消えるのは「作業」より「探す・打ち直す」
実際に時間を奪っているのは、記帳や請求そのものではないことがよくあります。
レシートがどこにあるか探す。この支払いが何だったか思い出す。同じ金額を、請求書と帳簿と入金メモに3回打ち直す。
この「探す」「思い出す」「打ち直す」が、毎月の経理を重くしている正体です。
逆に言えば、ここを減らせば作業のスピードを上げなくても経理は楽になります。仕事全体を一度書き出して整理したい場合は、業務の棚卸しのやり方もあわせて読んでみてください。
経理の手間は「減らす順番」で決まる
先に会計ソフトを契約しても、レシートが封筒に入ったままなら入力する手間は変わりません。減らす順番は、作業が発生する順と同じです。
上流の領収書が散らかっていると、下流の記帳が必ず重くなります。だから入り口から順に整えるほうが、同じ労力でも効果が出ます。
この記事で紹介する7つの工夫
| 工夫 | 減るもの | 最初の一歩 |
|---|---|---|
| 1.保存先を1つに | 領収書を探す時間 | 撮った写真の置き場を決める |
| 2.週1回5分 | 月末のまとめ作業 | 曜日を決めて予定に入れる |
| 3.口座を分ける | 生活費との仕分け | 事業用の口座とカードを1つ用意する |
| 4.2回打たない | 記帳の二重入力 | 明細を自動で取り込めるか試す |
| 5.型を使い回す | 請求書の作成時間 | ひな形を1つだけ作る |
| 6.入金は週1回 | 確認のたびの中断 | 確認する曜日を決める |
| 7.ソフトに任せる | 残った手作業 | 1〜6で残った困りごとを書き出す |
領収書・レシート整理を楽にする【工夫1・2】
経理がつらくなる原因のほとんどは、ここが後回しになっていることです。
工夫1.保存先を1つに決める
レシートを財布・封筒・カバン・机の上に分散させないことが、いちばん効果の大きい工夫です。
紙のまま箱に入れるか、受け取ったその場でスマホで撮ってクラウドへ入れるか。どちらでも構いません。大事なのは「置き場所が1つしかない」状態にすることです。
置き場所が2つあると、探す時間は2倍ではなく、「どちらにもなかったらどうしよう」という不安ぶん増えます。
撮影して保存する場合は、ファイル名を決めておくと後で探しやすくなります。たとえば「日付+支払先」だけでも十分です。
工夫2.月1回ではなく「週1回5分」にする
1か月分をまとめて処理すると、1回あたりが重くなります。重い作業は後回しになり、後回しにするともっと重くなります。
週1回なら、扱う枚数は数枚から十数枚です。「何に使ったか」もまだ覚えているので、思い出す時間がかかりません。
同じ作業量でも、分割すると体感の負担は下がります。曜日を決めて、予定として入れてしまうのがいちばん続きます。
記帳の手間と二重入力を減らす【工夫3・4】
記帳が重い理由は、入力そのものより「何の支払いか判断する時間」と「同じ数字を何度も打つ時間」にあります。
工夫3.事業用の口座・カードを分ける
生活費と事業の支払いが同じ口座に混ざっていると、明細を1行ずつ見て「これは事業、これは私用」と判断する作業が毎月発生します。
事業用の口座とカードを用意して、事業の支払いをそこへ寄せておけば、この判断のほとんどが不要になります。
減るのは入力時間ではなく、判断の時間です。件数が多い人ほど効きます。
工夫4.同じ数字を2回打たない
次のような流れになっていないか、一度たどってみてください。
受注の連絡 → 自分のExcelへ入力 → 請求書へ転記 → 入金確認メモへ転記 → 帳簿へ入力。
この場合、同じ金額を人が4回扱っています。請求書を速く作れるようになっても、4回は4回のままです。
整理前
- 受注の連絡が届く
- 自分のExcelへ入力
- 請求書へ転記
- 入金確認メモへ転記
- 帳簿へ入力
同じ金額を人が4回打っている
整理後
- 受注の連絡が届く
- 1回だけ入力する
- 請求・入金・帳簿へつながる
同じ金額を打ち直さない
減らし方は、ざっくり3方向あります。
- つなぐ:銀行・カードの明細を自動で取り込み、手入力をやめる
- まとめる:Excelと入金メモのように、役割が重なっている置き場を1つにする
- やめる:見返していない管理表をやめる
「やめる」は効果が大きい一方で、あとから必要になることがあります。1か月は残したまま使わずに置いて、困らなければ消す、くらいで十分です。
手入力そのものを減らす方法は、データ入力を自動化する5つの方法で詳しく整理しています。
請求書の作成・送付・入金確認を楽にする【工夫5・6】
請求まわりは、毎月ほぼ同じことを繰り返している場所です。繰り返しが多いほど、型を作る効果が出ます。
工夫5.請求書は「型」を使い回す
毎回ゼロから作らず、取引先ごとにひな形を1つ持っておきます。変えるのは日付・数量・金額だけにします。
あわせて、次の3つを固定してしまうと迷う時間がなくなります。
- ファイル名の付け方(例:日付+取引先+通番)
- 送付する曜日(例:月末の前営業日にまとめて送る)
- 送付の文面(毎回同じ定型文でよい)
「どう書くか」を毎回考えないことが、いちばんの時短です。
工夫6.入金確認は「まとめて1回」にする
入金が気になるたびに口座を開くと、そのたびに本業の集中が切れます。作業時間は短くても、中断のコストは小さくありません。
確認する曜日を決めて、その日にまとめて見ます。未入金があった場合の連絡文も、あらかじめ1つ用意しておくと、確認から連絡まで数分で終わります。
請求書の控えと入金確認を同じ場所で見られるようにしておくと、突き合わせの手間も減ります。
会計ソフトで楽になる範囲・ならない範囲【工夫7】
ここまでの6つは、新しい契約をしなくても始められます。そのうえで残った手作業がある場合に、会計ソフトを検討します。
工夫7.手作業が残る場所だけソフトに任せる
会計ソフトは「経理を全部やってくれる道具」ではありません。得意な範囲がはっきりしています。
| 作業 | 会計ソフトに任せられるか | 補足 |
|---|---|---|
| 明細の取込 | 任せやすい | 銀行・カードとの連携が前提 |
| 記帳・仕訳 | ある程度は任せやすい | 繰り返す取引ほど楽になる |
| 請求書作成 | 任せやすい | 対応範囲はサービスごとに違う |
| 領収書集め | 任せきれない | 集める習慣は自分側に残る |
| 内容の判断 | 任せられない | 最終的な確認は人が行う |
対応できる範囲はサービスやプランによって異なります。導入前に公式サイトで確認してください。
つまり、工夫1・2(集める)を飛ばして会計ソフトだけ導入しても、いちばん面倒な部分は残ります。逆に、明細の取込や繰り返しの記帳が重いなら、ソフトの効果は素直に出ます。
自分に合うやり方・会計ソフトの選び方
まず「いま残っている困りごと」から選ぶ
機能の多さで選ぶと、使わない機能に合わせて手順が増えます。残っている困りごとから逆に選ぶほうが、失敗しにくくなります。
- 取引の件数が少なく、明細の入力が苦にならない → まだソフトは要らない。工夫1〜6で足りることが多い
- 銀行・カードの明細を毎月手入力している → 自動取込のあるソフトが効く
- 請求書の作成と帳簿づけを別々にやっている → 請求から記帳までつながるソフトが効く
- 申告の作業だけが不安 → 申告書の作成まで対応しているかを見る
候補になる会計ソフト
個人事業主向けのクラウド会計ソフトとしては、freee会計とマネーフォワード クラウド確定申告がよく候補に挙がります。どちらも、明細の自動取込や申告書の作成まで対応する構成です。
ただし料金プラン・対応範囲・無料で試せる期間は変更されることがあります。この記事では現在の価格や優劣を断定しません。申し込む前に、必ず公式サイトで最新の内容を確認してください。
freee会計・マネーフォワード クラウド確定申告・やよいの青色申告 オンラインを、料金や機能だけでなく毎月の作業がどう変わるかまで踏み込んで比べたい場合は、個人事業主向け会計ソフト比較|freee・マネーフォワード・弥生を「毎月の手間」で選ぶで扱っています。この記事では「自分にソフトが必要か」を決めるところまでを扱います。
ソフトを使わない選択もある
取引先が数社で、支払いも月に数件という規模なら、表計算ソフトと決めた保存先だけで回ることもあります。
月額を払う前に、工夫1〜6をひと月だけ試して、それでも重い作業が残るかを見てください。残らなければ、契約しないのが正解です。
経理以外も含めて一人分の仕事を軽くしたい場合は個人事業主の業務効率化アイデア15選、作業ごとにどんな道具があるかを俯瞰したい場合は業務効率化ツール早見表が参考になります。
まとめ|7つの工夫は上から順に試す
個人事業主の経理は、作業を速くするより手で触る回数を減らすほうが楽になります。
- 領収書の保存先を1つに決める
- 月1回ではなく週1回5分にする
- 事業用の口座・カードを分ける
- 同じ数字を2回打たない
- 請求書は型を使い回す
- 入金確認はまとめて1回にする
- 残った手作業だけ会計ソフトに任せる
1と2だけでも、月末にレシートを探す時間はなくなります。3と4まで進むと、記帳の負担がはっきり軽くなります。
会計ソフトを考えるのは、6まで試したあとで十分です。そこまで来たときには、「何が重いからソフトを使うのか」が自分の言葉で説明できる状態になっています。
よくある質問
経理を楽にするには、何から始めればいいですか?
領収書の保存先を1つに決めるところからです。
記帳や請求が重く感じる原因の多くは、その前段でレシートが散らかっていることにあります。置き場所を1つにするだけで、探す時間と思い出す時間が減ります。
会計ソフトは必ず必要ですか?
必ずしも必要ではありません。
取引の件数が少なく、明細の入力が負担になっていないなら、保存先を決めて週1回まとめるだけで足りることもあります。銀行やカードの明細を毎月手入力している場合は、自動取込のあるソフトの効果が出やすくなります。
記帳は月末にまとめてやってはいけませんか?
禁止ではありませんが、週1回のほうが結果的に速く終わります。
まとめて処理すると1回が重くなり、何に使った支払いかを思い出す時間も増えます。週1回なら扱う枚数が少なく、記憶も新しいままです。
事業用の口座やカードは分けたほうがいいですか?
分けたほうが、毎月の判断が減ります。
生活費と混ざっていると、明細を1行ずつ見て事業か私用かを判断する作業が毎月発生します。事業の支払いを1か所へ寄せると、この判断のほとんどが不要になります。
費用をかけずに改善できますか?
できます。
保存先を1つにする、週1回にまとめる、請求書のひな形を使い回す、入金確認の曜日を決める。この記事の工夫1〜6は、新しい契約をしなくても始められます。
インボイス制度や電子帳簿保存法も同時に考えるべきですか?
効率化と制度対応は分けて整理してください。
効率化では「どこで手を動かしているか」を見ます。何をどの形で保存・記載する必要があるかは制度側の話なので、国税庁の最新情報や税理士へ確認してください。